アリスズ

 リクは、情報を欲しがった。

 景子の近況というよりも、都全体の情報。

 彼にとって、それは商売につながるのだろう。

 梅からの伝言の礼に、景子は知るかぎり話をした。

 話さなかったのは、自分のおなかの子たちの父親と、ロジュー関連の話くらいだ。

 この国に、他国の恐怖はない。

 そして、リクは梅の信頼した人だ。

 だからこそ、連作障害対策の話も出来た。

「大がかりな話だな」

 リクは、とても真剣にその話を聞く。

「水源の情報を、各領主が欲しがるようになるだろう」

 畑に、水を引く。

 治水事業と聞いて、彼はとても商売人らしい考えを口にしたのだ。

 商が動く瞬間を、景子はこの目で見た。

 官が、武が、そして商が――リクが水源の情報を売ることにより、治水事業の流れが少し速くなる。

 いや、もっと速くも、出来る。

「ち…治水例をいくつも作ったの! か、各領主の方に自分の土地でどの形が一番いいか考えてもらうために!」

 官の悪いところは、火急の要件以外の情報伝達が遅いこと。

 領主達に、たくさん考える時間を、あげたいと景子は思っていた。

 治水に向く地域、そうでない地域、人口、畑の規模。

 どこも違うのだ。

 治水事業を、行うことは決まっている。

 それなら。

「あ、あの、リクさん! まだ時間ある? あ、あるなら農林府まで、ちょっと一緒に来て!」

 民が、いる。

 この場合の民とは、官の反対の意味。

 日本だって、官公庁の書類は、普通に郵便や宅配で送られるではないか。

 急ぎではない、国の極秘事項でなければ、商人を使ってもいいはずだ。

 思い立ったが吉日。

 景子は、リクを農林府の上司の元までひっぱっていったのだった。
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