アリスズ

「府の書類は全て、軍令府の兵士が運ぶことになっている」

 室長の、ありがたい言葉がそれだった。

「火急の用事以外は、月に一度の出発ですよ、ね?」

 役所の情報の流れは、非常に鈍重だ。

 都と地方の、情報の格差と時間差は大きい。

「役所は、十年単位より長い間隔で物事を考えるのだ。だから、月に一度の情報伝達で、これまでも問題なくやってきている」

 ああ。

 君主が長生きだと、国民も長いスパンでものを考えるようになるのか。

 そして、現状維持を美徳としている気もする。

 うーん。

 景子は、この国と日本江戸時代を重ねて考えてしまった。

 よその大陸の、よその国や文明のことが、この国にいると聞こえてこないのだ。

 結果的に、鎖国をしているのと同じ気がする。

 よその国の文明が遅れていれば、何ら問題はないが、ある日黒船がやってきて、たった四杯で夜も眠れず、にならなければいいのだが。

「常に、情報は流れていた方がいいと思うんですが…」

 しかし。

 景子は、しゃべりながらも室長を説得する言葉を、自分がたくさん持っていないことを知ったのだ。

 次に、彼はこういうだろう。

『それは、農林府の考えることではない』

 まさに──その通りのことを言われた。

 あー。

 彼女は、植物馬鹿だ。

 だからこそ、植物のことならば、どれほど熱く語り尽くしてでも説得しようと頑張るだろう。

 だが、運輸のことになってくると、景子では脳みそも足りないし、情熱も若干下がってしまう。

 引く、しかなかった。

 梅さんが、いてくれたらなあ。

 ふと。

 景子は、北にいる彼女のことを思った。

 彼女ならば、自分の言わんとしていることを、理路整然と、そして相手の心を動かす言葉で言ってくれる気がしたのだ。

 とりあえず。

 景子は、無理に引っ張って来たリクに、謝りにいかなければならなかった。
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