アリスズ

 都。

 その門を、梅はようやくにして見上げることが出来た。

 とうとう。

 とうとう、ここまでたどりついたのだ。

「ありがとう、アルテンリュミッテリオ。エンチェルク」

 この気持ちを、どう伝えればよいか。

 これまで梅は、この身とうまく付き合ってきた。

 逆に言えば、一定以上負担になることは、全て諦めてきたのだ。

 だが、この都への上京だけは、あきらめきれなかった。

 景子も戦い、菊も戦っている。

 そんな中、自分にもきっと戦う場所があるのだと、そう信じてここまでやってきたのだ。

 まだここは、ただの出発点にしか過ぎない。

 けれども。

 梅が、いままで越えられなかった線を、確実に踏み越えた瞬間でもあったのだ。

 やっと。

 やっと、戦えるのだ。

 その事実が、どれほど嬉しいことか。

「さて、どこから行くかい?」

 アルテンは、感動を噛みしめている彼女に、行き先を問う。

 この荷馬車は、軍のもので。

 彼女は、イデアメリトスの手紙で召集されたのだ。

 ならば。

 行くべきところは、ひとつではないか。

「勿論…宮殿へ」

 絵でしか見たことのない、白石の宮殿。

 鳥のような翼を持つそここそ、一番に自分が向かうべきところだった。

 かくして。

 梅は、その目で美しい宮殿を目にすることになったのだ。

 ああ、ほら。

 本は本。

 絵は絵。

 その壮大さは、本物には遠く及ばなかった。
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