アリスズ

 中暑季地帯だ。

 着物には、適さないことくらいは分かっている。

 しかし、控えの間で、梅はそれに着替えた。

 イエンタラスー夫人が返してくれた、それだ。

「暑くありませんか?」

 久しぶりの都の熱気に、エンチェルクは少しつらそうだった。

 元々、暑いところの出身だが、しばらく離れていたせいで、すっかり中季地帯慣れしてしまったのだろう。

「ええ、暑いわね」

 きっちりと整え終わった後、梅は椅子へと浅く腰かけた。

 そのまま、二時間は待たされた。

 やむを得ないことだ。

 これから彼女が、会おうとしているのは、イデアメリトスの君なのだから。

 異国の娘ごときのために、簡単に時間を割けるはずなどない。

 だが。

 彼は、その異国の娘ごときを、召集したのだ。

 イデアメリトスの君が望んでいるのは──良い変化。

 しかも、どちらかというと大きめの変化だ。

 だからこそ、三人の異国の娘が、こうして都に集まったのである。

 ノッカーが鳴った。

「ご案内致します」

 案内の女性は、声をかけた後に梅を見て、ぎょっとした顔を浮かべる。

 着物のせいだろう。

「参ります」

 すくっと、彼女は椅子から立ち上がった。

「いってらっしゃいませ」

 エンチェルクが、少し心配そうに見送る声を聞きながら、彼女は中央の宮殿へと案内されるのだ。

 鳥の心臓へ。

「お連れ致しました」

 兵士が控える、重い重い扉がゆっくりと開かれる。

 息を吐く。

 二人の男が、その中には待っている。

 深く深く腰を屈めた。

「山本梅でございます。ザルシェイダハクシス・イデアメリトス・カラナビル16陛下…そして、アディマバラディムルク・イデアメリトス・サハダビル17殿下」

 息継ぎを忘れると、それだけで倒れてしまいたいほど長い名前の羅列だった。
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