アリスズ

太陽の子


「あら」

「よっ」

 そして──姉妹は、再会した。

 傍目で見ている景子には、その様子はとても淡白に見える。

 二人らしいと言えば、そうなのだが。

「いい時に来たね。来月には道場も出来るし…景子さんも、その辺りで出産かな」

 姉妹の再開シーンが、まだまだ続くと思っていたのだが、不意に話が振られて景子は焦った。

 双子の視線が、一気に彼女の方を向くのだ。

「た、多分そのくらいかと…」

 十月十日。

 古くからの表現はそうなのだが、正確には10カ月は切るらしい。

 同級生に、出産経験者も多かったので、景子ほどの年齢になると、自然にそういう知識だけはつくのだ。

 こちらの暦で当てはめると、大体来月くらいかな、というところだった。

 二人とも、穏やかな笑みで景子を見つめてくれる。

 梅は、おなかの中の子の父親を、一度も聞こうとはしなかった。

 おそらく、相手がアディマだと信じて疑っていないのだろう。

「道場の建設が間に合えばいいけどね…でないと、リサーの叔父さんちで産まないといけないだろう?」

 菊の心配に。

「いっそ、この部屋に一緒に住みません? これから大変でしょう?」

 梅の優しさが上積みされる。

 だが、景子は慌てて首を横に振った。

 彼女は、下っ端とは言え、農林府の役人なのだ。

 宮殿から出勤など、どんな御身分なのか。

「大丈夫です。あの屋敷には、出産の先輩もいますし…何とかなります」

 生まれるぎりぎりまで、働く気満々の景子は、姉妹の提案を辞退したのだ。

 外畑の治水事業の計画が、ほぼ固まりつつある中、臨月になるので休ませてくださいなどと、言えるはずもないのだから。

 ただ、職場の男性陣は、時々不安そうに景子のおなかを見ているが。

 いまにも、そこから赤ん坊が飛び出してくるのではないか、という目だ。

 そんな環境も、ほどよく楽しんでいた景子にとって、心強いことは増えるばかり。

 菊がいる。

 梅がきてくれた。

 梅と菊の味方もいる。

 そう考えると、景子は幸せでしょうがなかった。
< 386 / 511 >

この作品をシェア

pagetop