アリスズ

 幸せって──痛い。

 景子は、自分の身体の中でどんどんひどくなっていく痛みに、青ざめていた。

 これが、本当に正しい陣痛なのか、なんて知っているはずもないのだから。

「大丈夫だよ、まだまだ先さ。ゆっくりしていればいい」

 女中頭のネラッサンダンは、笑いながら出て行ってしまう。

 産婆などは、全て彼女が手配してくれることになっているので、その準備に向かったのだろう。

 代わりに残されたのは、彼女の息子のシェローだけ。

「ケーコ、痛いか? かあちゃん呼ぶか?」

 と、彼がオロオロしてくれたおかげで、景子は逆に落ち着くことが出来た。

「大丈夫。シェローだって、ちゃんと生まれたんだもんね。この子たちも、ちゃんと生まれるよ」

 楽になっては、また痛む。

 また痛んでは、楽になる。

「そうだよな。かあちゃんだって、ケーコだってちゃんと生まれたんだよな」

 彼女のおなかに手を伸ばしてなでながら、シェローが感心したような声で言葉を紡ぐ。

 ああ、そうか。

 私も、生まれたんだっけ。

 こうやって。

 お母さんの身体の中で暴れて。

 母の、希望通りの娘としては、生まれることは出来なかった。

 自分の奇妙な能力も、この世界では少しは役に立った。

 こんな、奇妙な能力のある自分だからこそ。

 自分やアディマの能力が、この子たちに遺伝していても、ちゃんとまっすぐ向き合えると思った。

 そうか。

 きっと。

 きっと、自分の能力は、アディマの子をちゃんと産んで育てるために、前もってもらっていたものなのだ。

 ああ。

 ああ、痛い、痛い。

 さっきより、痛みの間隔が少し短くなった。

 幸せって。

 やはり、痛いの裏っかわにいるのだろう。
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