アリスズ

 もう一人の子には、ほくろはなかった。

 しかし、この子の方が、もう一人より肌の色が薄い。

 一卵性ではないのだろうか。

「こっちでは、先に産まれた方が兄だってさ…梅の抱いていた方だね」

 乳をもらって、ようやく眠り始めた二人の赤ん坊の頬を、菊は軽く指先でつついた。

「見分けやすくてよかったな…うちと一緒だ」

 彼女は、とても嬉しそうにつつく。

 ふにゃあと、兄の方が泣いた。

「菊、あんまりいじっちゃだめよ…産まれてきたばかりで疲れてるんだから。それは景子さんも一緒ね…少し眠ったらどうかしら」

 気を遣った二人が、部屋を出て行こうとした時。

 開いた扉の向こうに──リサーがいた。

「ゴホン…入ってもいいか」

 女性の、出産した部屋である。

 いくら彼でも、不用意に入れなかったのだろう。

「手短に」

 梅は、歓迎しない声で答えた。

 景子にとって、よい客ではないと思っているに違いない。

 リサーの目的は、彼女にだって分かっている。

 アディマに、生まれた子供のことを報告するためだ。

 だから、彼は景子はちらと見るだけで、その後、二人の子をじーっと穴が開くほど見つめた。

「本当に、二人とは…」

 そう、ため息混じりに呟いた後、リサーは景子を向き直った。

「後日、正式に沙汰がある。その時、魔法の力を持っているかどうか確認される。それまで、大事に育てよ」

 彼の言葉は── 一方的だった。

 必要であれば、そのまま子供だけ連れて行くと言わんばかりだ。

 景子が、驚きで口もきけずにいると。

 出て行こうとするリサーの前に、菊が立ちふさがる。

「馬車でも言ったろう? 何でも思い通りにしようなんて…思わない方がいい」

「イデアメリトスの君の代行にしては…赤ん坊に対する愛が足りませんわね」

 二人のゴッドマザーは。

 もう、彼女の子供たちを、守ろうとしてくれた。
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