アリスズ

「久しぶりだね、ケイコ」

 アディマは──変わらなかった。

 人払いされた東翼。

 案内されたのは、五人。

 景子、梅、菊。

 それと、ハレとテル。

「久しぶり…」

 二人きりではないので、顔を合わせるのは少し照れる。

 でも、彼が考え込んだ様子や、暗い素振りを見せないのは嬉しいことだった。

 子供の事で、アディマを悩ませているのではないだろうか。

 そう考えたこともあったので。

「兄はどっちだい?」

 菊と梅の腕の中の赤ん坊を見ながら、彼は苦笑した。

 双子ならではの悩みに、困惑しているのだろうか。

「こちらのハレです」

 梅が、腕に抱いた子を差し出す。

「ハレ?」

 仮の名を、梅が堂々と口に出すものだから、景子は焦った。

「はい、私達の国の言葉で、太陽の差すよい天気という意味です」

 語源まで説明するものだから、なお景子は冷や汗をかく。

「あ、あの…アディマ、これはその…」

 勝手に名前をつけたわけじゃないのだと、そう言い訳をしようとしたら。

「そうか。いい名だね。では、みなにハレと呼んでもらえる名にしよう。この子は、ケイコに似ているな」

 あっさりと。

 アディマは、本当にあっさりと、その名前を受け入れた。

 いいんだろうかと、景子が戸惑ってしまうほどに。

「テルです。太陽が差す様を表す名前です。とびっきり、元気がいいですよ」

 菊が、弟を差し出す。

「ああ、こっちは僕の血がはっきり出ているな。ほくろが二つ…皆が忘れない子になるだろう」

 アディマは、赤ん坊を一人ずつ抱いてくれた。

 ハレ、テル、お父さんだよ。

 それを、言葉に出して許されることか分からないけれども。

 景子は心の中で、子供たちに言ったのだった。
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