アリスズ
☆
産毛のような黒髪を。
アディマは、一本ずつ赤ん坊の頭から抜いた。
テルが、それに過敏に反応して、泣き出しそうになる。
「こんなこと、何でもないよ」
菊が、静かに一言つぶやくと。
泣きかけたテルが、ぴたっと止まる。
景子は、それにちょっと感心してしまった。
彼女ならば、絶対にテルを大泣きさせてしまっていただろう。
アディマは。
右の掌と左の掌に、その短い髪を握りこんで──目を閉じた。
ないと、いいな。
景子は、そんなことを祈った。
力なんて、ないといいな。
もし、そうだったなら、自分とアディマの関係が、ここで終わるのだと、心のどこかで分かっていた。
魔法の力を受け継げないのならば、景子が子を産む意味などないと、彼の父親が考えるからだ。
別の親戚が、正式な妻に座る。
そんなこと、ちゃんと分かっている。
アディマのことは、変わらず愛している。
その気持ちに、これっぽっちの陰りも嘘もない。
でも。
この子たちと、離れたくなかった。
普通の子として、泥とたわむれて、世間の中で育って欲しい。
そう、願ってしまった。
女と母の板挟みの中。
アディマが、ゆっくりと目を開けた。
その目が、まっすぐに景子に向けられる。
唇が。
開く。
「うん…まさしく僕の子だ」
アディマは、嬉しそうだった。
「二人とも…立派なイデアメリトスだよ」
喜ぶ彼と正反対に、景子はゆっくりゆっくりと沈んでいったのだった。
産毛のような黒髪を。
アディマは、一本ずつ赤ん坊の頭から抜いた。
テルが、それに過敏に反応して、泣き出しそうになる。
「こんなこと、何でもないよ」
菊が、静かに一言つぶやくと。
泣きかけたテルが、ぴたっと止まる。
景子は、それにちょっと感心してしまった。
彼女ならば、絶対にテルを大泣きさせてしまっていただろう。
アディマは。
右の掌と左の掌に、その短い髪を握りこんで──目を閉じた。
ないと、いいな。
景子は、そんなことを祈った。
力なんて、ないといいな。
もし、そうだったなら、自分とアディマの関係が、ここで終わるのだと、心のどこかで分かっていた。
魔法の力を受け継げないのならば、景子が子を産む意味などないと、彼の父親が考えるからだ。
別の親戚が、正式な妻に座る。
そんなこと、ちゃんと分かっている。
アディマのことは、変わらず愛している。
その気持ちに、これっぽっちの陰りも嘘もない。
でも。
この子たちと、離れたくなかった。
普通の子として、泥とたわむれて、世間の中で育って欲しい。
そう、願ってしまった。
女と母の板挟みの中。
アディマが、ゆっくりと目を開けた。
その目が、まっすぐに景子に向けられる。
唇が。
開く。
「うん…まさしく僕の子だ」
アディマは、嬉しそうだった。
「二人とも…立派なイデアメリトスだよ」
喜ぶ彼と正反対に、景子はゆっくりゆっくりと沈んでいったのだった。