アリスズ

「イデアメリトス以外の妻を娶られるなど、前代未聞ですぞ!」

 太陽府の府長は、のっけから大反対を唱えた。

 イデアメリトスや儀式、宮殿に関する取り仕切りが、この府の仕事だ。

 リサーを右に、ダイを左に。

 その真ん中にアディマは座って、府長を見ていた。

「ただの娘ではない…太陽の昇る国からの御使いだ…魔法の力も持っている」

 彼は、悠然と構えた。

「そんな国など、聞いたこともございませんが」

 魔法の力、という言葉が効いたのだろうか。

 府長は、わずかに語気を弱めた。

 彼らの中にしみついている、魔法信仰のおかげだ。

「そうだろうな。この世界にはない国だ」

 嘘はない。

 だから、アディマもこうして堂々と口に出せる。

「違う世界から来たとおおせですか…」

 府長は、頭の中でそれらの事を、うまく組み立てられないでいるようだ。

「既に、子供も二人いる。男の子だ。二人とも、魔法の力を受け継いでいる」

 そして、とどめを刺す。

 アディマが妻を娶るということは、子供が必要だからだ。

 その子供の問題が、既に解決しているのである。

「それが…本当に殿下の御子である証明は…」

 だが。

 まだ、府長は食らいついてきた。

 元々、魔法の力を持つ女ならば、他の男の子を使ってこの国を乗っ取ろう──そう考えているのでは。

 慎重で、そして正しい思考だ。

 アディマは、自分の国の太陽府府長が、馬鹿ではないという事実に大いに満足した。

「我が叔母上が、婚姻の儀の証人だ。いま西翼に来ておいでだから、確認に行くがいい。この婚姻の儀は、父上も御認めになっている」

 とどめのとどめ。

 この国で、三人だけの正当なイデアメリトス。

 その全員が、この異国の娘との婚儀に噛んでいる。

 もはや。

 府長は、反論出来ないようだ。

 リサーは、何か言いたげにこの場の空気を見たが──小さなため息をひとつついただけだった。
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