アリスズ
☆
「この苗でよろしいでしょうか?」
両手で苗を抱えているので、少し下にずれたメガネを、景子は直せないでいた。
視界の一部が、猛烈にぼんやりとしてしまう。
「元気そうな苗ですね…それをお願いします」
着物の女性が、目を細めて微笑む。
「では梱包しますので、少々お待ち下さい」
根元を包もうと、景子はぱたぱたと紐やら新聞紙やらを準備を始める。
「何かよいことがあったんですか?」
袴の微妙な空気には気づいていたが、彼女はあえて聞いてみた。
お祝いの買い物を、花屋にしにくる人を好きだったのだ。
「はい…弟が生まれたんです」
本当に、着物は嬉しそうだ。
「そうですか、おめでとうございます。こんな綺麗なお姉さん二人に祝ってもらえるなんて、弟さんも幸せですねっ」
その嬉しさは、景子に簡単に感染する。
この目のせいなのかもしれない。
逆に言えば、悪いものも感染しやすいのだが。
そんな幸福感染モードで、彼女はぺらぺらと語ってしまった。
一瞬。
袴は驚いた顔をして。
着物は、ぷっと吹き出した。
「ご、ごめんなさい…菊を見て一目で女性だって分かる人も少ないんです。菊は袴ばかりですから」
驚いた顔をした袴──菊を見て、もう一度彼女はおかしそうに笑う。
ぷいと、また菊はあらぬ方を向いてしまった。
「へえ、綺麗な花の名前ですね…じゃあ、あなたも花の名前ですか?」
慌てて、景子は違う話題を振った。
その件は、深く突っ込んではいけないと思ったのだ。
すると。
今度は、袴の唇の端が、少しだけ上がった気がした。
「はあ…私の名前は…その…」
少し顔を赤らめて、着物の女性は口ごもる。
「その……梅と申します」
綺麗で丈夫な花なのに。
古風すぎて、周囲にからかわれたことがあるのだろうか。
「寒い中でも美しく咲く、素晴らしい花の名前ですね」
景子がにっこりと笑うと。
頬を赤らめたまま、彼女は「ありがとうございます…」と返してくれた。
「この苗でよろしいでしょうか?」
両手で苗を抱えているので、少し下にずれたメガネを、景子は直せないでいた。
視界の一部が、猛烈にぼんやりとしてしまう。
「元気そうな苗ですね…それをお願いします」
着物の女性が、目を細めて微笑む。
「では梱包しますので、少々お待ち下さい」
根元を包もうと、景子はぱたぱたと紐やら新聞紙やらを準備を始める。
「何かよいことがあったんですか?」
袴の微妙な空気には気づいていたが、彼女はあえて聞いてみた。
お祝いの買い物を、花屋にしにくる人を好きだったのだ。
「はい…弟が生まれたんです」
本当に、着物は嬉しそうだ。
「そうですか、おめでとうございます。こんな綺麗なお姉さん二人に祝ってもらえるなんて、弟さんも幸せですねっ」
その嬉しさは、景子に簡単に感染する。
この目のせいなのかもしれない。
逆に言えば、悪いものも感染しやすいのだが。
そんな幸福感染モードで、彼女はぺらぺらと語ってしまった。
一瞬。
袴は驚いた顔をして。
着物は、ぷっと吹き出した。
「ご、ごめんなさい…菊を見て一目で女性だって分かる人も少ないんです。菊は袴ばかりですから」
驚いた顔をした袴──菊を見て、もう一度彼女はおかしそうに笑う。
ぷいと、また菊はあらぬ方を向いてしまった。
「へえ、綺麗な花の名前ですね…じゃあ、あなたも花の名前ですか?」
慌てて、景子は違う話題を振った。
その件は、深く突っ込んではいけないと思ったのだ。
すると。
今度は、袴の唇の端が、少しだけ上がった気がした。
「はあ…私の名前は…その…」
少し顔を赤らめて、着物の女性は口ごもる。
「その……梅と申します」
綺麗で丈夫な花なのに。
古風すぎて、周囲にからかわれたことがあるのだろうか。
「寒い中でも美しく咲く、素晴らしい花の名前ですね」
景子がにっこりと笑うと。
頬を赤らめたまま、彼女は「ありがとうございます…」と返してくれた。