アリスズ

 景子は、困っていた。

 アディマと結婚をするという事実の重さは、日に日に大きく、しかも重圧を伴っていたのだ。

 次期、イデアメリトスの太陽と呼ばれる世継ぎの結婚式なのだから、豪華絢爛であってもなんらおかしくはない。

 またしても1週間ほど、都は祭りと化すらしい。

 国を挙げての、結婚式なのだ。

 準備の時間も、たっぷりかかる。

 婚姻の承認に、四神殿の神官を招くため、軽く半年先になってしまう。

 そのおかげで半年間、景子は宮殿に缶詰になる──ところだった。

 とんでもない、と。

 即座にアディマに直談判に行き、農林府の仕事が出来るように懇願したのだ。

 既に、結婚のお触れは出されている。

 しかし、幸いなことに世継ぎの結婚としか書かれておらず、景子の名前は出されていないのだ。

 世間一般には、顔も名前も知られていないいまなら、まだ動きやすいように思えた。

「妃になるものが働き者だと…僕は更に働き者でなければならないな」

 アディマには、そう苦笑されてしまう羽目になる。

 外に出る許可が出るまで、少しかかった。

 ただし、一人で、ではない。

 ダイお墨付きの、品行方正な近衛兵が常時つけられることになったのだ。

 後で、リサーに思い切り睨まれたことを考えると、彼も不承不承納得させられたのだろう。

 子供たちは、というと。

 一人につき一人ずつ、気品ある乳母がつけられた。

 まあ、お坊ちゃんたち、よい身分だこと──そう景子が笑うほどの好待遇である。

 ただ、朝一番だけは、景子が二人の部屋を巡って授乳させていた。

 そうしたかったのだ。

 でなければ、子供たちに自分のことを忘れ去られてしまいそうで。

 結婚式の準備が着々と進んでいく中、妃予定の景子は、畑で泥にまみれていることとなったのである。

 唯一、ついていたことは。

 日焼けした肌になったとしても、お国柄上、まったく問題がなかった、ということだった。
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