アリスズ
梅の花
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最初から、変わった人だと思っていた。
彼女は、異国の綺麗な衣装を着ていて、自分に向かってこう聞いたのだ。
『あなた…お名前は?』
低い位置の声だった。
いつも、上からの言葉に慣れていたエンチェルクにとって、それは衝撃の一瞬で。
たくさんいる使用人の一人、ではなく。
彼女は、『私』の名前を知りたがってくれたのだ。
『そう…私はウメ、よろしくね』
短い短い、この国ではありえないほど短い名前。
彼女の国に咲く、花と同じ名前だと教えてもらった。
その花を。
見てみたいと思った。
本物の花を見ることは、いまも叶ってはいないが、ウメという女性が絡んだことで、大事件がいくつも起きた。
テイタッドレック卿の子息が──別人になったのだ。
あの時の衝撃は、誰も言葉に出来ないだろう。
『ただいま、帰りました』
浮ついた癇癪持ちは、そこにはいなかった。
使用人の間では、イデアメリトスの魔法にかけられたに違いないという者までいたほどだ。
だが、時間がたってゆくにつれ、それは魔法でもなんでもないのだと分かってきた。
彼は、本当に変わったのだ。
逆に言えば、生まれ変わるほどの何かを、旅で体験してきたのだ。
そこで、出てきたのは『キク』という異国の人だった。
ウメという女性の、姉妹だという。
そしてある日。
子息は、エンチェルクの元へとやってきた。
何を言われるのだろうと、思っていたら。
『お前を、ウメの側仕えにしたいと思っているのだが、承知してくれるか?』
命令では、なかった。
命令で使われることに慣れていた彼女には、驚くべき言葉だった。
この子息を、これほどまでに変える何かを持っている異国の女性たち。
エンチェルクは、それにすっかり憧れを覚えたのだ。
『はい、喜んで』
断る理由など、一片もなかった。
最初から、変わった人だと思っていた。
彼女は、異国の綺麗な衣装を着ていて、自分に向かってこう聞いたのだ。
『あなた…お名前は?』
低い位置の声だった。
いつも、上からの言葉に慣れていたエンチェルクにとって、それは衝撃の一瞬で。
たくさんいる使用人の一人、ではなく。
彼女は、『私』の名前を知りたがってくれたのだ。
『そう…私はウメ、よろしくね』
短い短い、この国ではありえないほど短い名前。
彼女の国に咲く、花と同じ名前だと教えてもらった。
その花を。
見てみたいと思った。
本物の花を見ることは、いまも叶ってはいないが、ウメという女性が絡んだことで、大事件がいくつも起きた。
テイタッドレック卿の子息が──別人になったのだ。
あの時の衝撃は、誰も言葉に出来ないだろう。
『ただいま、帰りました』
浮ついた癇癪持ちは、そこにはいなかった。
使用人の間では、イデアメリトスの魔法にかけられたに違いないという者までいたほどだ。
だが、時間がたってゆくにつれ、それは魔法でもなんでもないのだと分かってきた。
彼は、本当に変わったのだ。
逆に言えば、生まれ変わるほどの何かを、旅で体験してきたのだ。
そこで、出てきたのは『キク』という異国の人だった。
ウメという女性の、姉妹だという。
そしてある日。
子息は、エンチェルクの元へとやってきた。
何を言われるのだろうと、思っていたら。
『お前を、ウメの側仕えにしたいと思っているのだが、承知してくれるか?』
命令では、なかった。
命令で使われることに慣れていた彼女には、驚くべき言葉だった。
この子息を、これほどまでに変える何かを持っている異国の女性たち。
エンチェルクは、それにすっかり憧れを覚えたのだ。
『はい、喜んで』
断る理由など、一片もなかった。