アリスズ
○
「大丈夫?」
梅は、エンチェルクを椅子に掛けさせた。
足首が、倍ほどに腫れあがっている。
「すみません」
彼女は、とてもいたたまれないように、小さくなってしまった。
「最近、粗忽すぎるぞ。あちこちぶつけたり、今日にいたっては階段から転げ落ちるなんて」
ヤイクは、容赦なくそんな彼女を、上から押しつぶす。
半年ほど経っても、この二人の関係はこんな風だ。
そんな少年の言葉を追いやるように、梅は彼女の真正面に来て、それから膝を折った。
「誰かに…突き落とされたのでしょう?」
見上げるようにして、エンチェルクに問いかける。
一瞬、びくっと彼女の瞳が揺らいだ。
ヤイクが、ひどく驚いた顔でこっちを見る。
「あの、いえ…」
彼女は、首を横に振った。
「他の怪我も、不自然なところがあったわね」
エンチェルクの瞳が、斜めに逃げる。
「突き落とされたって!? どうして!?」
ヤイクが、見事に食いついてきた。
「さあ、どうしてでしょうね…あなたなら、考えれば解ける答えではなくて?」
そんな小さな貴族に、穏やかに聞いてみる。
ヤイクは、眉間に深い深いシワを刻んだ。
この瞬間だけを見るなら、少年とは思えない表情だった。
「ああ…そうか」
彼は、エンチェルクを──ではなく、梅を見た。
「梅が、目ざわりなんだな」
はぁーっと、深い深いため息をもらす。
「梅が、めちゃくちゃな提案ばっかりして、政治をかき回すせいだ」
悪いのは、梅。
非常に明快な答えを、ヤイクは出してくれた。
「ご名答。ご褒美に、湿布薬を取りに行かせてあげるわ」
「それが褒美かよ!」
ツッコミも鋭いヤイクに、梅は笑った。
「あなたは、決して階段から突き落とされたりしないから…大丈夫よ」
東翼長の甥。
その身分は、必ずヤイクの身を守るだろう。
梅の言葉に──小さな貴族様は、一瞬顔をこわばらせたのだった。
「大丈夫?」
梅は、エンチェルクを椅子に掛けさせた。
足首が、倍ほどに腫れあがっている。
「すみません」
彼女は、とてもいたたまれないように、小さくなってしまった。
「最近、粗忽すぎるぞ。あちこちぶつけたり、今日にいたっては階段から転げ落ちるなんて」
ヤイクは、容赦なくそんな彼女を、上から押しつぶす。
半年ほど経っても、この二人の関係はこんな風だ。
そんな少年の言葉を追いやるように、梅は彼女の真正面に来て、それから膝を折った。
「誰かに…突き落とされたのでしょう?」
見上げるようにして、エンチェルクに問いかける。
一瞬、びくっと彼女の瞳が揺らいだ。
ヤイクが、ひどく驚いた顔でこっちを見る。
「あの、いえ…」
彼女は、首を横に振った。
「他の怪我も、不自然なところがあったわね」
エンチェルクの瞳が、斜めに逃げる。
「突き落とされたって!? どうして!?」
ヤイクが、見事に食いついてきた。
「さあ、どうしてでしょうね…あなたなら、考えれば解ける答えではなくて?」
そんな小さな貴族に、穏やかに聞いてみる。
ヤイクは、眉間に深い深いシワを刻んだ。
この瞬間だけを見るなら、少年とは思えない表情だった。
「ああ…そうか」
彼は、エンチェルクを──ではなく、梅を見た。
「梅が、目ざわりなんだな」
はぁーっと、深い深いため息をもらす。
「梅が、めちゃくちゃな提案ばっかりして、政治をかき回すせいだ」
悪いのは、梅。
非常に明快な答えを、ヤイクは出してくれた。
「ご名答。ご褒美に、湿布薬を取りに行かせてあげるわ」
「それが褒美かよ!」
ツッコミも鋭いヤイクに、梅は笑った。
「あなたは、決して階段から突き落とされたりしないから…大丈夫よ」
東翼長の甥。
その身分は、必ずヤイクの身を守るだろう。
梅の言葉に──小さな貴族様は、一瞬顔をこわばらせたのだった。