アリスズ
☆
「私は、景子です」
最初に覚えたこの国の文章が、それだった。
長い旅は、少しずつ少しずつ新しい言葉を増やしていってくれる。
夜の暗い月の下で野宿をする時、彼女はは寝物語のようにアディマの言葉を聞くことが出来た。
すぐ側で、眠れるようになったのだ。
最初は、リサーが不満をあらわにしていたが、ついにはあきらめたようだ。
そのおかげで。
「アディマ、おはよう…いい天気ね」
起きた後、この国の言葉で、一番最初にそう話しかけられるようになっていた。
「おはよう、ケーコ…うん、いい天気だ」
浅い洞窟から見える外の空に、アディマはその金褐色の瞳を細める。
景子は、最初に植物の名前を制覇していった。
職業柄、それを覚えるのは得意だったのだ。
花屋で扱う植物は、外来種も大変多いので、漢字ではない植物名に慣れていたおかげだろう。
覚えた植物を、見かける度に唇の中で繰り返す。
植物に詳しいのは、シャンデルだった。
花の名前を聞いた時、男たちの誰も名前を知らなかったことがあったのだ。
それにたまりかねたように、彼女が名前を口にしたのが始まりだった。
その後、シャンデルが植物担当のような扱いになったのである。
本人は、不承不承という様子だったが。
「ケーコ─植物─好き──?」
部分的に、分かる言葉で理解できた。
「好き、大好き」
つい、にこにこして答えてしまう。
植物は、景子にいつも優しいのだ。
昼は明るい色で、目を楽しませてくれるし、夜は光って彼女を助けてくれる。
薄暗い森の中でも、植物の光があるおかげで、楽しく歩けるのだ。
そんな彼女の目に。
ひときわ光る樹木が、遠くに映った。
何かの実をつけている──そんな色の光だったし、他の木と光り方そのものが違うのだ。
「アディマ…木…果物?」
何とか単語を引っ張り出して、景子はアディマの意識を引いた。
ダイが目をこらす。
「太陽…?」
呟かれた言葉に、菊以外が一斉にそっちを見た。
「私は、景子です」
最初に覚えたこの国の文章が、それだった。
長い旅は、少しずつ少しずつ新しい言葉を増やしていってくれる。
夜の暗い月の下で野宿をする時、彼女はは寝物語のようにアディマの言葉を聞くことが出来た。
すぐ側で、眠れるようになったのだ。
最初は、リサーが不満をあらわにしていたが、ついにはあきらめたようだ。
そのおかげで。
「アディマ、おはよう…いい天気ね」
起きた後、この国の言葉で、一番最初にそう話しかけられるようになっていた。
「おはよう、ケーコ…うん、いい天気だ」
浅い洞窟から見える外の空に、アディマはその金褐色の瞳を細める。
景子は、最初に植物の名前を制覇していった。
職業柄、それを覚えるのは得意だったのだ。
花屋で扱う植物は、外来種も大変多いので、漢字ではない植物名に慣れていたおかげだろう。
覚えた植物を、見かける度に唇の中で繰り返す。
植物に詳しいのは、シャンデルだった。
花の名前を聞いた時、男たちの誰も名前を知らなかったことがあったのだ。
それにたまりかねたように、彼女が名前を口にしたのが始まりだった。
その後、シャンデルが植物担当のような扱いになったのである。
本人は、不承不承という様子だったが。
「ケーコ─植物─好き──?」
部分的に、分かる言葉で理解できた。
「好き、大好き」
つい、にこにこして答えてしまう。
植物は、景子にいつも優しいのだ。
昼は明るい色で、目を楽しませてくれるし、夜は光って彼女を助けてくれる。
薄暗い森の中でも、植物の光があるおかげで、楽しく歩けるのだ。
そんな彼女の目に。
ひときわ光る樹木が、遠くに映った。
何かの実をつけている──そんな色の光だったし、他の木と光り方そのものが違うのだ。
「アディマ…木…果物?」
何とか単語を引っ張り出して、景子はアディマの意識を引いた。
ダイが目をこらす。
「太陽…?」
呟かれた言葉に、菊以外が一斉にそっちを見た。