アリスズ

 道を外れても、そこは行くべきところだったようだ。

 森の中、ダイを先頭に彼らはその木を目指すのである。

 近づくにつれ、アディマが瞳を眩しそうに細めてゆく。

「うん、そうだ」

 輝く橙色の実をたわわにつけた、威厳ある木だった。

 ダイが一度神妙に、自分の眉間に指をあてた後、大きな背を生かして実をひとつもぎ取る。

 その実は、アディマに捧げられた。

「ケーコ…これは、太陽の果物だよ」

 彼は実を、空に掲げる。

 木々の間から入る太陽に、かざそうとしたのだろうか。

 そうせずとも、景子の目には眩しいほどだった。

 リサーもシャンデルも、木や実を興奮して見つめている。

 太陽の果物…ミカンみたいなものかしら。

 景子は、とぼけたことを考えていた。

「それ…珍しい?」

 菊が、ブツ切り単語で問いかける。

 シャンデルが、とんでもないという目で振り返った。

「太陽の果物…──!」

 早口でよく分からないが、相当珍しいもののようだ。

「100─1─」

 アディマの口から、数字が出てきた。

 100? 1?

 子供が覚える数字のわらべ歌を習ったおかげで、景子はこの世界の数字を理解していた。

 歌わされたのは、シャンデルだったが。

 無愛想なまま、しかし、指を折りながら歌ってくれたので、それが数字の歌だと分かったのだ。

 100と1

 100回に1回、100度に1度──100年に1年。

 100年に1回!?

 景子の頭の中で、それらしいものとつながって仰天した。

「至上の幸運」

 アディマの声で、景子は新しい言葉をまた一つ覚えた。

 美しい言葉だった。
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