アリスズ

「ウメさん…お話があります」

 宮殿に出勤した梅を待っていたのは、エンチェルクだった。

 いつもとは違う気配に、梅の方が気おされそうだった。

 椅子が二つ向かい合わせに用意されており、座るよう勧められる。

 何事かしら。

 腰を下ろすと、エンチェルクも同じように向かいに座る。

 菊に鍛えられているせいで、居住まいを正した座り方を、彼女は身に付けていた。

 背筋をぴんと伸ばして、梅を見るのだ。

「言っても聞いてくださらないでしょうし、さしでがましいことだと思いましたので、いままで言えないことがありました」

 ヤイクが入ってきて、二人の様子を訝しそうに見ているが、エンチェルクはまったく気にしていない。

 ただ、梅だけをまっすぐに見ている。

「私は、ウメさんが子供を産むことには、反対です」

 どストレードに、エンチェルクは言葉を打ちこんで来た。

 あら、まぁ。

 梅が感心するほど、まっすぐに。

 その一撃は、どうやらヤイクにも激突したようで、ぎょっとした顔をこちらに向けている。

「ですが…」

 エンチェルクが、微かに言葉を緩める。

「ですが、その反対を押し切ってでも、子供を産むとおっしゃるのでしたら…私は、ウメさんがどんなに嫌がってもうやめてと言っても…!」

 再び声は、どんどん強くなってゆき、最後の辺りでは、もう裏返らんばかりだ。

 梅の身体が、言葉におされて後方に反ろうとする。

「心配しますからね!」

 朝も昼も夜も、眠った後も。

 妊婦の期間も、出産の時も、産んだ後も、育てる時も。

「ずっとずっと…心配し続けますからね!」

 エンチェルクは、言葉の最後にはもう、涙目になっていた。

 ええと。

 宣言の内容が、余りに想像を超越していすぎて、梅は一瞬意味が分からなかったのだ。

 ヤイクが、この女はバカじゃなかろうかという目で、エンチェルクを見ている。

 そうして、梅は。

「それは…困ったわね」

 一拍置いた後に、胸の奥から湧き上がる熱い感触に──笑ったらいいのか、泣いたらいいのか、分からなくなってしまったのだった。

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