アリスズ
☆
梅さん!
景子は、彼女の執務室へと急いでいた。
梅が、この宮殿を出て行かなければならないというのだ。
その話を聞くや、景子は行かずにはいられなかった。
「あ、これは東翼妃殿下」
梅の側仕えの少年が、すっと身を屈める。
子供であっても、その身のこなしは貴族の躾を受けているものだ。
リサーの甥というだけあって、よく似ている。
片づけの始まった部屋の中、いるのは彼だけだった。
「あの、梅さんは?」
エンチェルクの姿もないので、一緒に外に出ているのだろうか。
「挨拶に行っています」
義理がたい梅のことだ。
宮殿内でお世話になったところに、別れの挨拶をしているのだろう。
「そう…」
しょんぼりと、そして所在なく梅を待っていると、少年が自分を見ているのに気づく。
「あの、ウメなら心配いらないと思います」
鋭くしゃべる子だ。
自分の仕える相手を呼び捨てにしているのは、身分をしっかり把握しているからか。
「宮殿から下がるといっても、叔父の屋敷に執務室をもらいますし、これから町や町人を中心の仕事に移るので、丁度いいと言ってましたから」
すらすらと、彼は今後の梅の行く末を説明した。
彼の叔父、ということはリサーの屋敷ということか。
景子は、それにほっとしたのだ。
ちゃんと説明を聞かない内に飛び出してしまったが、アディマが梅をないがしろにするはずはない。
逆に、こちらの方が梅の身を守ることになるのだと、そう判断したに違いなかった。
「あら…景子さん」
ほっとしかけた彼女の耳に、梅の声が聞こえてくる。
挨拶を終えて帰ってきたようだ。
「梅さん…」
振り返って、それから言葉を考えようとした景子は。
頭が──真っ白になった。
梅の。
おなかが。
光っていた。
梅さん!
景子は、彼女の執務室へと急いでいた。
梅が、この宮殿を出て行かなければならないというのだ。
その話を聞くや、景子は行かずにはいられなかった。
「あ、これは東翼妃殿下」
梅の側仕えの少年が、すっと身を屈める。
子供であっても、その身のこなしは貴族の躾を受けているものだ。
リサーの甥というだけあって、よく似ている。
片づけの始まった部屋の中、いるのは彼だけだった。
「あの、梅さんは?」
エンチェルクの姿もないので、一緒に外に出ているのだろうか。
「挨拶に行っています」
義理がたい梅のことだ。
宮殿内でお世話になったところに、別れの挨拶をしているのだろう。
「そう…」
しょんぼりと、そして所在なく梅を待っていると、少年が自分を見ているのに気づく。
「あの、ウメなら心配いらないと思います」
鋭くしゃべる子だ。
自分の仕える相手を呼び捨てにしているのは、身分をしっかり把握しているからか。
「宮殿から下がるといっても、叔父の屋敷に執務室をもらいますし、これから町や町人を中心の仕事に移るので、丁度いいと言ってましたから」
すらすらと、彼は今後の梅の行く末を説明した。
彼の叔父、ということはリサーの屋敷ということか。
景子は、それにほっとしたのだ。
ちゃんと説明を聞かない内に飛び出してしまったが、アディマが梅をないがしろにするはずはない。
逆に、こちらの方が梅の身を守ることになるのだと、そう判断したに違いなかった。
「あら…景子さん」
ほっとしかけた彼女の耳に、梅の声が聞こえてくる。
挨拶を終えて帰ってきたようだ。
「梅さん…」
振り返って、それから言葉を考えようとした景子は。
頭が──真っ白になった。
梅の。
おなかが。
光っていた。