アリスズ

 シャンデルが、自分の袋に詰められないほど、太陽の果実を詰め込もうとした。

 リサーの行動も同じだった。

 100年に1度しか実らない果実なのだとしたら、その貴重さは伺い知れる。

 実をもがれるたびに、木が光を失っていくのが分かった。

 そんな光景は、何度も見たことがある。

 実をつけるために、木は力の全てを注ぐのだ。

 その実が落ちると、ほっとしたように光を落とす。

 また次の実が実るまで、少しずつ少しずつ回復してゆくのだ。

 その準備に、この木は100年もかかるという。

 景子は、太くしっかりした幹をなでた。

 ここは、決して日当たりがよくない。

 そんな中、懸命に美しい実をつけたのだ。

 そして。

 景子が生きている間に、もうこの実が次に実ることはない。

 そんな彼女に。

 ダイが、実を差し出す。

 大きな手のおかげで、その手には二つの果実がのせられていた。

 一つだけもらおうとしたら、もう一つ促される。

 両手に一つずつ、景子は太陽を握った。

 梅にも同じように。

 ダイが、一つそのままかぶりついた。

 橙色の果実は、しゃりっと瑞々しい音を立てる。

 リサーとシャンデルは嫌そうだったが、菊はあっさりそれにならった。

「あー…すごい甘い」

 そこは、日本語だ。

 景子は、ごくりと喉を鳴らした自分に気づいて、あわててきょろきょろする。

 誰かにそれを聞かれていないか、気になったのだ。

 そして。

 歯を立ててみた。

 甘露、とはこういう味なのか。

 蜂蜜のような凝縮された甘みと、微かな酸味が口の中に広がる。

「おいしい…」

 景子は、覚えた言葉を使ってアディマに伝えてみた。

 言葉は下手でも、いまの彼女の顔を見れば、きっと一目瞭然だろう。

 アディマの歯が、ゆっくりと実を噛み閉めた。

「これが…太陽の──」

 太陽の味なのか。

 アディマは、そう言ったのかもしれない。
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