アリスズ

 アルテンの住む屋敷に通い始めて10日ばかり。

 いつ、自分に子供が出来たと分かるだろうか。

 それ以前に、出来るのだろうか。

 病弱な身体の関係で、梅は元々ひどい生理不順だった。

 自分の身体が、子供を産むには適さないと言っているように思えて、彼女は心配していたのだ。

 そんな不安を。

 景子が、崩してくれた。

「梅さんのおなかに…赤ちゃんがいます」

 必死の、表情だった。

 彼女の身体を心配してくれる、本当に一生懸命な顔。

 景子の言葉の、裏の意味を考える前に。

「まあ…嬉しい」

 梅は、幸福に包まれたのだ。

 ああ、よかった、と。

 これで、梅は自分の命を賭け金として、テーブルに載せたことになる。

 勝つわよ。

 菊が、自分自身や他人と戦い勝ち続けてきたように、梅も自身と戦って勝つのだ。

 何故、景子がこんなにも早く、彼女の妊娠が分かったのか。

 その疑問が、軽く首をもたげる。

 しかし、疑うのも聞くのも野暮に思えた。

 きっと、それが彼女の持つ魔法なのだ。

 景子は、梅が子供を産もうなんて考えていることさえ、知りもしなかったのだから。

 梅を見た時に驚いたのは、その瞬間に妊娠に気付いたからだろう。

 何で?、と。

 合点がいくと、景子の心が手に取るように分かってくる。

 最初から、不思議な人だった。

 双子であることも、菊の性別も正確に見抜いていたのだ。

 景子には、何かが見える。

 普通の人には、見えない何かが。

 それを、彼女は悪用したりはしない。

 そんなことは、これまでの関係で、嫌というほど分かっていた。

 ならば。

 それでいいではないか。

 おかげで、梅は──自分の中の命を知ることが出来たのだから。
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