アリスズ
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キクが、珍しく少しだけ酒を飲んだ。
まずくて好きではないと言っていたが、気分的に飲みたかったのだろう。
だが、やはり強くはないようで。
「死ぬのは…こういう時か?」
思うように動けない自分に気づいたらしく、キクは苦笑した。
彼女が、今夜死ぬことは決してない。
ダイが、送っているからだ。
夜道でよろける、彼女の腕を取る。
「悪いな…もう、絶対飲まないから」
こんなに弱いとは、思ってなかった。
困った表情は、なかなか見られるものではない。
その足が、途中で止まる。
「梅に見られるのも、シャクだな」
ぼそりと、何かを呟いた。
「むこう三日は、物笑いの種にされそうだ…どこかで酔いを覚ましていこう」
支えているダイを引っ張って、あらぬ方向へと歩き始める。
どこへ行きたいわけではなく、ただあてどなく歩きたいのか。
ダイは、彼女を支えているのか、引っ張られているのか分からない状況で、とりあえず中央広場へと向かった。
そこならば、腰掛ける場所もある。
そして、真っ暗なおかげで──誰もいなかった。
「もうすぐ満月か」
石段に腰掛けて、キクは空を見上げる。
夜空の馬は、その横顔をくっきりと浮かべていた。
「月は…少しは好きになったか?」
その視線が、馬から自分の方へと向く。
「ああ…」
これには、ダイが苦笑せざるをえない。
太陽の近衛隊長を捕まえて、月を勧めるのだから。
「でも…ダイには、太陽が似合うな」
目を細めて、キクが自分に微笑みかける。
月光を浴びた、黒に近い世界の中でも、彼女の表情はよく分かる。
ダイは、一度唇を空回らせた。
まだ、人の名前を呼ぶのは苦手なままだったのだ。
「キクは…月が似合う」
だから。
ダイは──月が嫌いではなくなった。
キクが、珍しく少しだけ酒を飲んだ。
まずくて好きではないと言っていたが、気分的に飲みたかったのだろう。
だが、やはり強くはないようで。
「死ぬのは…こういう時か?」
思うように動けない自分に気づいたらしく、キクは苦笑した。
彼女が、今夜死ぬことは決してない。
ダイが、送っているからだ。
夜道でよろける、彼女の腕を取る。
「悪いな…もう、絶対飲まないから」
こんなに弱いとは、思ってなかった。
困った表情は、なかなか見られるものではない。
その足が、途中で止まる。
「梅に見られるのも、シャクだな」
ぼそりと、何かを呟いた。
「むこう三日は、物笑いの種にされそうだ…どこかで酔いを覚ましていこう」
支えているダイを引っ張って、あらぬ方向へと歩き始める。
どこへ行きたいわけではなく、ただあてどなく歩きたいのか。
ダイは、彼女を支えているのか、引っ張られているのか分からない状況で、とりあえず中央広場へと向かった。
そこならば、腰掛ける場所もある。
そして、真っ暗なおかげで──誰もいなかった。
「もうすぐ満月か」
石段に腰掛けて、キクは空を見上げる。
夜空の馬は、その横顔をくっきりと浮かべていた。
「月は…少しは好きになったか?」
その視線が、馬から自分の方へと向く。
「ああ…」
これには、ダイが苦笑せざるをえない。
太陽の近衛隊長を捕まえて、月を勧めるのだから。
「でも…ダイには、太陽が似合うな」
目を細めて、キクが自分に微笑みかける。
月光を浴びた、黒に近い世界の中でも、彼女の表情はよく分かる。
ダイは、一度唇を空回らせた。
まだ、人の名前を呼ぶのは苦手なままだったのだ。
「キクは…月が似合う」
だから。
ダイは──月が嫌いではなくなった。