アリスズ
×
「しょうがない…うちに連れて帰るか」

 話の筋が通り、これからどうするかという話の雰囲気になりかけた時。

 キクが、一瞬で結論を出した。

「とりあえず、寝泊りするだけなら道場もあるし…トーの客なら無碍にも出来んしな」

 ちょいと借りがあってね。

 キクは、片目を細めて見せた。

 ダイには、あまり歓迎できない。

 あの男は、敵を連れて来る。

 その敵を狩るのが、ダイの仕事ではあるのだが、騒乱を都に持ち込まれるのはよくないことだ。

 反対しようとした矢先。

 キクが、まっすぐにダイを見た。

「出来たら、一年くらいトーを都に留めたい」

 そして。

 とんでもないことを、言い出す。

 無理だ。

 言いかけた言葉を、ダイは飲み込んだ。

 彼女が、何か思うところがあって、その言葉を言っている。

 きっと、何か大事な理由で。

 彼の無言の意味を知ってか、キクがふっと笑みを浮かべた。

「すまんな…困らせたいワケじゃないんだ」

 行こう。

 彼女は、立ち上がる。

 客のマリスを連れて、家に帰ろうとしているのだ。

「事情を…」

 キクはさっき、ダイを頼るようなことを言った。

 トーをとどめることを、彼が望んでいないと知っている上で。

 たとえ彼女が酔って言ったことだとしても、それを放り出してしまえなかったのだ。

 キクは、入り口に立って、そして振り返った。

「私の…わがままだ」

 笑う。

 そして、去る。

「分かるように…話せ」

 ようやくダイが呟いた言葉など──誰も聞いてはいなかった。
< 469 / 511 >

この作品をシェア

pagetop