アリスズ

 ダイの手の届く範囲の実を取り、袋を膨らませた一行は、再び元の道へと戻った。

 景子は、実以外にいくつかのお土産をもらった。

 一つは、太陽の木の枝を一本。

 ダイに頼んで、短い枝を小刀で落としてもらったのだ。

 そして──食べた果実の種。

 継げるかどうか分からないし、種が芽を出すかどうか分からない。

 しかし、職業病のようなものだった。

 その日の夕刻近く。

 いくつめかの町についた。

 旅人の彼らを、町の人が次々と振り返る。

 理由は分かっていた。

 彼らから、甘い匂いがただよっているのだ。

 森の道から木まで、結構あったために匂いまでは届かなかったが、すれ違う人々にはよく分かるようだ。

 特に、たっぷり抱えて重い思いをしているリサーとシャンデルは、甘い香りの塊みたいなものだった。

「──果物? 売っ──?」

 匂いと商売に敏感な男が、リサーに声をかける。

 彼は追い払おうとしたが、匂いがたまらないのか、一向に離れようとしなかった。

 ダイが、ちらりとアディマを見た。

 彼に、何かを期待している視線に感じる。

 周囲の人が、増えてゆく。

 旅人が、何か珍しいものを持って町に入ってきた。

 その好奇心に、群がっているのだ。

 ダイが、アディマをかばうように歩いているが、これでは埒があかない。

 子供ならざる者は、足を止めた。

 そして、周囲を見まわすのだ。

「──果物─店─?」

 朗々として高く弦楽器のような声で、アディマは町人の雑音を、一瞬にして止めた。

 すると、最初に付きまとった商人らしき男が、最初の強引さは嘘のようにおずおずと手を上げる。

 アディマが彼を見ると、射すくめられたように男はびくっとした。

「─果物─売─?」

 続けて問うと、男は指を3つ掲げた。

 アディマは、それに頷いて。

 その後に、リサーとシャンデルを見ると、二人はがっかりと肩を落としたのだった。
< 47 / 511 >

この作品をシェア

pagetop