アリスズ

 野菜と果物を扱うような店先に到着すると、アディマはもう一度リサーとシャンデルを見た。

 しぶしぶ。

 彼らは、ようやく自分の重い荷物を下ろし始める。

 袋の口が開いた瞬間。

「………!」

 果物店の店主は、声もなく固まった。

 そして。

 ばっと顔を上げた後、猛烈に何かを計算するような動きを始める。

 指を何本も上げたり下げたりして、どうやらこの果実に値段をつけている様子だ。

 その様子に。

「この村──果物─?」

 アディマが、何か問いかけると、店主は一瞬沈黙した。

「──4ダム─」

 次に、おそるおそる指を四本立てるではないか。

 こくりとアディマが頷くと、リサーが何か言いたてようとする。

 明らかなる抗議だ。

 それを、彼は手でおしとどめた。

 こうなるともう、リサーは何も言えなくなる。

 そして、太陽の果実は男の手へと受け渡された。

 溢れだす橙色の実に、町人は歓声をあげる。

 一斉に、店頭に群がろうとした。

 その動きを、バンと男は棚を叩いて押しとどめる。

「この果物は─4ダム─売る─1家に1─」

 商売に必要な大声は、アディマとは別の意味で遠くまで通った。

 顔を見合わせる町人。

 周囲の群衆は、歓声を上げた。

 シャンデルは、もはや泣きそうだった。

 リサーは、果物屋を見ないようにしている。

 そして。

 一瞬にして、果物は完売した。

 果物屋の男は、町の人間をすべて把握しているのだろう。

 誰に売るべきか、きちんと分かっているようだった。

 刃物を持ち出し、切り売りをする場面もあった。

 そして、群がっていた人々は、みな溢れんばかりの笑顔で家路へと向かうのだ。

 残ったのは。

 手についた果汁をなめる幸せそうな男と、アディマ一行。

 その中で──二人ほど、再起不能状態だった。
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