アリスズ
☆
菊の刀の音に、ダイも反応した。
とっさに背中にアディマをかばいながら、剣を豪快に引き抜くのだ。
ひぃぃっ。
景子は、飛びのいていた。
こういう修羅場に、慣れているはずがない。
彼女やシャンデルは、隅っこでガタガタ震えて事が終わるのを待たなければならないのだ。
果物屋の男は、随分と身軽で。
すぐさま、酒場のカウンターの向こうへと飛び込んでしまった。
一人だけ?
景子がガクブルしながら、そう思いかけた時。
二階に向かう階段にも、光がぽっと灯っているのが分かった。
菊が、彼女より遅く気づくということは、気配がまったくないのか。
階段は後方にある。
だから、ダイの後ろにいるアディマの位置が、非常に危険に思えたのだ。
「き…菊さん…階段」
階段という言葉が分からずに、景子は日本語でそれを発した。
だが。
日本語ということは、幸いにも気配のない連中にも分からないワケで。
菊が、ようやくもう一人を認識したのか、微かに肯いた。
「ダイ…前をよろしく」
そんな日本語で伝わるのか謎だが、言葉を投げるや菊は、テーブルを片手で飛び越えて反転した。
階段の人間が、それに大きな反応を見せる。
短い剣の二刀流の相手に、菊は容赦なく刀を抜いて踏み込んで行った。
前では、ダイが一歩も動かずに剣を構え続ける。
彼が豪快に剣を振るには、ここは狭すぎるのかもしれない。
しかし、ダイがそうすることで、相手もまた迂闊には動けないようだ。
「………!」
そんな中、声のない悲鳴があがった。
景子が振り向くと。
血しぶきが、壁に散るところだった。
光が激しく炸裂する。
強く目を閉じて、その呪いを見ないようにした。
しかし、遅かった。
あの夜とまったく同じ呪いを、彼女は見てしまったのである。
ズシィン。
重い剣の振るわれる音と、もうひとつの声なき悲鳴を、景子は強く目を閉じたまま聞いたのだった。
菊の刀の音に、ダイも反応した。
とっさに背中にアディマをかばいながら、剣を豪快に引き抜くのだ。
ひぃぃっ。
景子は、飛びのいていた。
こういう修羅場に、慣れているはずがない。
彼女やシャンデルは、隅っこでガタガタ震えて事が終わるのを待たなければならないのだ。
果物屋の男は、随分と身軽で。
すぐさま、酒場のカウンターの向こうへと飛び込んでしまった。
一人だけ?
景子がガクブルしながら、そう思いかけた時。
二階に向かう階段にも、光がぽっと灯っているのが分かった。
菊が、彼女より遅く気づくということは、気配がまったくないのか。
階段は後方にある。
だから、ダイの後ろにいるアディマの位置が、非常に危険に思えたのだ。
「き…菊さん…階段」
階段という言葉が分からずに、景子は日本語でそれを発した。
だが。
日本語ということは、幸いにも気配のない連中にも分からないワケで。
菊が、ようやくもう一人を認識したのか、微かに肯いた。
「ダイ…前をよろしく」
そんな日本語で伝わるのか謎だが、言葉を投げるや菊は、テーブルを片手で飛び越えて反転した。
階段の人間が、それに大きな反応を見せる。
短い剣の二刀流の相手に、菊は容赦なく刀を抜いて踏み込んで行った。
前では、ダイが一歩も動かずに剣を構え続ける。
彼が豪快に剣を振るには、ここは狭すぎるのかもしれない。
しかし、ダイがそうすることで、相手もまた迂闊には動けないようだ。
「………!」
そんな中、声のない悲鳴があがった。
景子が振り向くと。
血しぶきが、壁に散るところだった。
光が激しく炸裂する。
強く目を閉じて、その呪いを見ないようにした。
しかし、遅かった。
あの夜とまったく同じ呪いを、彼女は見てしまったのである。
ズシィン。
重い剣の振るわれる音と、もうひとつの声なき悲鳴を、景子は強く目を閉じたまま聞いたのだった。