アリスズ

「この度は、ダイエルファンと私の姉妹、菊の婚礼の席に御同席頂き、誠に有難うございました」

 ダイと菊の座る横で、梅が深々と三つ指をつく。

 みな、一言もない。

 自分たちの知らない空気が、この道場の半分を占めていることに気づいているのだ。

 ここにいる人間たちは、梅や菊が異国の人間であることを知っている。

 それでも、ここまではっきりと違う異国の空気を味わった人間は、そう多くはない。

 ここが、道場であるということもまた、それを増幅させているのだろう。

「立会人のおらぬ式でありますから、みなさま全てがこの二人の婚礼の立会人となっていただきとうございます」

 その言葉に、菊は薄く微笑んだ。

 綿帽子の影からでも、御曹司も景子も──それどころか、太陽もリサーもいるのが見える。

 誰が立会人になってもおかしくない、そうそうたる面子だ。

 だからと言って、梅は今更方針を変えはしない。

 太陽もシェローも、トーも御曹司も門下生も商人も。

 ここにいる間は、みなが一様なのだと。

 梅は、それを貫くのだ。

「婚礼をご承認いただける方は、私の掛け声の後、一拍のご唱和、お願い致します」

 彼女は、その手を両側に開いて見せた。

 みな。

 よく分かっていないながらに、真似をしている。

 一番様になっているのは、勿論景子だ。

 子供を膝に乗せたまま、にこにこと両手を開いている。

「二人の末永い幸せを祈って……よぉっ!」

 梅が、両手を広げる。

 瞬間。

 道場の中の、全ての音が一つになった。

 パァン、と。

 みな。

 自分が手を打ち合わせていながら、何が起きたのか分からない顔をしていた。

「ありがとうございました」

 深々と。

 梅に合わせ、菊も同じように頭を垂れたのだった。
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