アリスズ
△
「ああ、疲れた」
ようやく白無垢から解放された菊は、動きやすい袴で伸びをした。
隣にいるのは、ダイ。
仰々しい近衛の上着を脱いで脇に抱えている。
道場には、酔い潰れた兵士たちがいくらか残っている程度。
もういいからと、梅が二人をそこから抜け出させたのだ。
今日は、ダイの官舎に泊まれと言われていた。
何もかも、手抜かりのない姉妹だ。
「あんな妙な結婚式をしたのは、きっとダイ、私達だけだな」
梅の趣向は、かなり彼女を愉快にしたのだ。
だから、隣を歩く男に自慢したくなった。
太陽と月と、貴族と平民と、剣術家に商人に。
あれだけ違う方向を向いている人間たちが、ひとつの空間を共有したのは、驚くべきことだろう。
リサーだけは、最後までうまく空気に馴染めずにいたようだったが。
「あれが…」
ダイが。
ぼそりと呟く。
「あれが…お前の望む世界か?」
言葉と共に、視線が下ろされる。
「さあ、私は何でもいいだけだ。上があってもいい、下があってもいい。右も左もあってもいい」
真面目に考え過ぎだ。
菊は、彼の腕をぽんぽんと叩いた。
「でも、みな笑っていたろう? あれは、いいな…」
ああいうのは、いい。
無礼講という言葉ほどではないが、それぞれの立場を尊重しつつも、みな式を楽しんでくれていた。
あの太陽が、月と酒を酌み交わす──そんな、すさまじい光景まで見られたのだ。
みなが、嬉しげに子供たちを抱きかかえる。
短い間だが、あの空間は楽園のような素晴らしさだった。
式の記憶でいっぱいになっていた、そんな菊に。
「美しかった…」
一言、ダイが口にした。
多分。
菊の姿の事だったのだろう。
「ああ、疲れた」
ようやく白無垢から解放された菊は、動きやすい袴で伸びをした。
隣にいるのは、ダイ。
仰々しい近衛の上着を脱いで脇に抱えている。
道場には、酔い潰れた兵士たちがいくらか残っている程度。
もういいからと、梅が二人をそこから抜け出させたのだ。
今日は、ダイの官舎に泊まれと言われていた。
何もかも、手抜かりのない姉妹だ。
「あんな妙な結婚式をしたのは、きっとダイ、私達だけだな」
梅の趣向は、かなり彼女を愉快にしたのだ。
だから、隣を歩く男に自慢したくなった。
太陽と月と、貴族と平民と、剣術家に商人に。
あれだけ違う方向を向いている人間たちが、ひとつの空間を共有したのは、驚くべきことだろう。
リサーだけは、最後までうまく空気に馴染めずにいたようだったが。
「あれが…」
ダイが。
ぼそりと呟く。
「あれが…お前の望む世界か?」
言葉と共に、視線が下ろされる。
「さあ、私は何でもいいだけだ。上があってもいい、下があってもいい。右も左もあってもいい」
真面目に考え過ぎだ。
菊は、彼の腕をぽんぽんと叩いた。
「でも、みな笑っていたろう? あれは、いいな…」
ああいうのは、いい。
無礼講という言葉ほどではないが、それぞれの立場を尊重しつつも、みな式を楽しんでくれていた。
あの太陽が、月と酒を酌み交わす──そんな、すさまじい光景まで見られたのだ。
みなが、嬉しげに子供たちを抱きかかえる。
短い間だが、あの空間は楽園のような素晴らしさだった。
式の記憶でいっぱいになっていた、そんな菊に。
「美しかった…」
一言、ダイが口にした。
多分。
菊の姿の事だったのだろう。