アリスズ

 食事どころではなくなってしまった。

 と、景子は思っていたのに。

「おいしいよ、これ」

 死体を片付け、血を洗い流してきた菊とダイは、複雑そうな店主の差し出す料理に、至極当然のように食らいついたのだ。

 アディマも、黙々と食事に入っている。

 リサーは青い顔をしていたが、それでも気合を入れなおしたように食事を始めた。

 なかなか食べ始められないのは、シャンデルと景子。

 シャンデルなどは、まだ指が震えているようだ。

 うう。

 見ちゃった。

 景子は、あの呪いの一瞬が頭にこびりついて、食事をする気になれなかった。

 壁に散った血よりも、そっちの方がよほど頭に焼きつくのだ。

 初めて、景子たちがこの世界に降り立った日に見たのと、同じ呪いに感じた。

 しかも、彼らはとても強い人だったに違いない。

 あのダイも菊も、気づくのが遅れたのだから。

 景子だって、光が見えなければ存在すら分からなかっただろう。

「また、助けられたな」

 菊が、日本語で話しかけてくる。

 意味など分からないだろうに、ダイも彼女を見た。

 アディマも。

「──分かった?」

 ダイが、ぼそりと呟くように景子に語りかける。

 ああ。

 いまのが、何故~? という文法なのかな。

 景子の頭は、逃避に向かってまっしぐらだった。

 ダイは、何故景子があの敵に気づけたのか。

 そう問いかけているに、違いないのだから。

 景子は、まだ自分が青い顔をしていることを理解しながら、首を傾げた。

 言葉の意味が、よく分からない。

 どうして見つけられたのか、分からない。

 どっちの意図として、汲んでもらってもよかった。

 ただ、アディマを見た。

 あの怖い人たちは、この子供ならざる者を狙っているのではないだろうか。

 そう、心配に思ったからだ。

 しかし。

 アディマの景子を見る目の方が──心配そうだった。
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