アリスズ

 そっか。

 部屋に戻ったら、シャンデルと二人きりになる。

 いつもの野宿とは、違うのだ。

 さっきがさっきだっただけに、景子はアディマを心配していた。

 いくら、アディマが子供ならざる者と分かっていたとしても、身体はとても小さい。

 ダイや菊と引き離されたら、景子でさえ負けないような気がするくらい。

 身分が高いせいで、どこからか恨みでも買っているのだろうか。

 景子が、うーんうーんとベッドに座って考え込んでいると。

 ノッカーが鳴った。

「ど、どなた?」

 答えたのは、シャンデル。

 音にびくついて、声が上ずっている。

 彼女もまだ、さっきの事件を引きずっているのだ。

「僕だ───」

 声は、アディマだった。

 瞬間。

 シャンデルの姿勢がぴんと伸びて、大急ぎで扉を開く。

 無礼を、とでも言わんばかりに腰をかがめようとする彼女を、手で押しとどめた。

 アディマのすぐ後ろには、ダイが立っている。

「───」

 言葉を受けて、シャンデルは何故か、一度景子の方を振り返った後。

「はい」

 と答えるや、解いていなかった自分の荷物をひっつかんで、部屋を出て行ってしまったのだ。

「……え?」

 驚きは、そのまま声になる。

 景子は、入ってきたアディマと、出て行ったシャンデルを、同じ視界の中で見てしまったのだ。

 ダイを見ると、彼は肩をそびやかすや──扉を閉めてしまったのである。

 えええええ!?

 だが、同時に。

 ドアの向こうで、ドスンと座り込む音もまた、聞こえたのだ。

 そこで、番をする気なのか。

「アディマ…ここ…寝る?」

 たどたどしい言葉で、景子が問いかけると。

 彼は、ゆっくりと肯いたのだった。
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