アリスズ

 ドォンッ!

 大砲が炸裂したような大きな音が、後方であがった。

「グギャインッ!」

 そして、猛った生き物の叫ぶ悲鳴。

 ドスン、バタン、ゴロゴロゴロ。

 その生き物は、大きな身体をもんどり打たせるように、斜面を転がり落ちていった。

 景子は、側の木の幹にしがみつくようにして身体を止めながら、その光景を信じられないまま見ていた。

「な…なに…?」

 ひゅーひゅーぜーぜー。

 全然足りていない酸素の中、興奮したままの彼女は、それを何とか音にした。

 斜面の上を見上げると、菊が滑るように駆け下りてくるところで。

「大丈夫? 景子さん? 怪我は!?」

 手には、鞘ごとの刀を握ってはいるが、抜いてはいない。

 コクコクと頷いて、無事を伝える。

 菊が、ほぉっと脱力したようにため息をついた。

 ダイは、アディマを支えるようにゆっくりと降りてくる。

 その後から、残りの二人。

「───!」

 怒っているのは、リサーだった。

 ダイが顔を顰めるくらい、大きな声で怒りの声をあげている。

 早口で、さっぱり聞き取れないが、ダイが怒られるようなことをしたのだろうか。

 自分に向いている怒りではないことに、景子が驚くほどだ。

 リサーが一行の主なら、彼女などとっくに放り出されているだろうから。

「───」

 アディマが、景子の安全を目にしながら、ほっとしたように何かを言う。

 そこで、リサーはぐぅと言葉を飲み込まされた。

「ご、ごめんなさい…」

 皆が、予定外の道を下ってきたことに、景子は青ざめながら謝りを入れる。

 悪いのは獣なのだが、冷静に対応できなかったせいで、余計な手間をかけたことは間違いないのだから。

 リサーは、忌々しそうに顔を横に向けた。

「ケーコ…大丈夫?」

 まだへたりこんだままの彼女に、アディマが心配そうな声をかける。

 あれ?

 何だろう。

 景子にもうまく説明出来ない違和感が、そこにはあった。
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