アリスズ
二人旅
☆
昨日まで進んでいた方角と、違う道に菊は進んでいく。
だんだん空は白み始め、夜明けを喜ぶ植物たちの光がいっそう美しい。
だが、景子は唇も足取りも重かった。
菊について行きながらも、気分は沈んでいくばかりだったのだ。
「そう、落ち込まないで」
そこまでしゃべり上手ではない菊に、気を遣わせてしまうほど。
顔を上げて、曖昧に微笑みかけた景子に、彼女は頬をかいた。
「面白いことを教えるから」
歩きながら、彼女の意識をひきつけようとする。
面白いこと?
菊が、不真面目な大風呂敷を広げる人でないことは知っている。
その彼女が、面白いこと、と珍しい表現をしたのだ。
「ダイがね…言ったんだよ」
景子の興味を引いたと、分かったのだろう。
菊が、少しだけ安心した目をした。
「ブロズロッズという町を目指してるって」
聞いたことのない名前だった。
前に、アディマに聞いた時は、違う音だったような気がする。
でも、それがどうしたというのだろう。
景子が、怪訝に彼女を見ていたら。
「私たちの行くあてなんて、最初からないんだし…そのブロズロッズって町へ、見物にでも行こうか」
菊が──薄く笑う。
少しだけ子供めいた瞳を、彼女に向けながら。
あ。
お天道様が、昇ってゆく。
景子の心の中にも、ゆっくりとお天道様が昇るのだ。
「道も分からないし、二人旅だから少し遅めになると思うけどね」
それでもよければ。
菊が、太陽に照らされながら、景子に笑いかける。
20年よりももっと短い期間しか生きていない彼女に、こんなにまで気を遣わせるなんて。
それでも。
そんな、大人失格な自分であったとしても。
この申し出を、喜ぶ心は抑えられなかったのだった。
昨日まで進んでいた方角と、違う道に菊は進んでいく。
だんだん空は白み始め、夜明けを喜ぶ植物たちの光がいっそう美しい。
だが、景子は唇も足取りも重かった。
菊について行きながらも、気分は沈んでいくばかりだったのだ。
「そう、落ち込まないで」
そこまでしゃべり上手ではない菊に、気を遣わせてしまうほど。
顔を上げて、曖昧に微笑みかけた景子に、彼女は頬をかいた。
「面白いことを教えるから」
歩きながら、彼女の意識をひきつけようとする。
面白いこと?
菊が、不真面目な大風呂敷を広げる人でないことは知っている。
その彼女が、面白いこと、と珍しい表現をしたのだ。
「ダイがね…言ったんだよ」
景子の興味を引いたと、分かったのだろう。
菊が、少しだけ安心した目をした。
「ブロズロッズという町を目指してるって」
聞いたことのない名前だった。
前に、アディマに聞いた時は、違う音だったような気がする。
でも、それがどうしたというのだろう。
景子が、怪訝に彼女を見ていたら。
「私たちの行くあてなんて、最初からないんだし…そのブロズロッズって町へ、見物にでも行こうか」
菊が──薄く笑う。
少しだけ子供めいた瞳を、彼女に向けながら。
あ。
お天道様が、昇ってゆく。
景子の心の中にも、ゆっくりとお天道様が昇るのだ。
「道も分からないし、二人旅だから少し遅めになると思うけどね」
それでもよければ。
菊が、太陽に照らされながら、景子に笑いかける。
20年よりももっと短い期間しか生きていない彼女に、こんなにまで気を遣わせるなんて。
それでも。
そんな、大人失格な自分であったとしても。
この申し出を、喜ぶ心は抑えられなかったのだった。