アリスズ

 こんな土で、無理をして同じ穀物を作るから。

 ひとつの土地で、延々同じ作物を作ると、こういう症状が起きる。

 土の中の微生物や、土の質が偏りすぎて土そのものを殺すのだ。

 景子は、輝ききれていない植物を見た。

 これでは、本来の実りは期待できないだろうし、既に年々収穫は減っているはずである。

 おばさんは、景子の言葉に何度も首を傾げた。

 言っている意味が、うまく伝わらないのだろう。

 微生物と言っても、この国の人には見えないのだから、理解してもらえるはずもない。

 自分が、随分と恵まれた技術国から来たことを、こんなところで思い知るだけなのだ。

 ただ。

 おばさんは、困ったようにため息をついた後、それでも景子に「ついておいで」と言ってくれたのである。

 多分、自分の手に負えない人間だと思ったのだろう。

 そのまま村に入ると、いきなり多数の子供に囲まれた。

 旅人が、珍しくてしょうがないのだろう。

「あっちへおいき!」

 おばさんの声で、蜘蛛の子たちは散り散りになる。

「にいさん、にいさん、少し話を聞いておくれ」

 おばさんは、とある家の扉のノッカーを、カンカンと打ち鳴らした。

 のそり。

 扉が開くと、頭のてっぺんから顎まで、全ての毛がつながったような中年の男が現れる。

 一瞬、ハイジのおんじが現れたかと思ったが、まだそこまで年はいってないようだ。

 おばさんを一度見た後、景子たちに怪訝な目を向ける。

「この子が畑─土が危ない──」

 本人も余り飲み込めていないように、首をかしげながらおばさんは彼に説明した。

 男の目が、むぅと寄った。

「畑、たくさん…出来てない?」

 景子は、疑問形で語りかける。

 農村ならきっと、税金を作物で収めているに違いない。

 だから、収穫量くらいは把握しているはずだ。

 男の表情が、深く深く曇った。

 どうやら──心当たりがあるようだった。
< 75 / 511 >

この作品をシェア

pagetop