蜜柑寮より愛を込めて
門を出て、すぐ右に曲がって、一番最初の信号を左…。
最初の信号を左…。
柚実は、受付の男性に教えてもらった道順を心の中で繰り返す。
「あ。」
一番最初の信号を曲がったところに、建物があった。
…これか。
柚実は思う。
一見、大学の寮には見えない。
しかし、これはどう考えても、一般の住宅にも見えない…。
はっきりといってしまえば、洋風のお屋敷を少し小さくした感じだ。
こんな建物を建てられるのはあの大学くらいだろう。
柚実は、少しドキドキしながら、閉まっている門に手をかけた。
―ガシャン
開かない。
(…あ。そっか。秋菜さんから鍵を預かってたんだったっけ。)
柚実は、がさがさとスカートのポケットから鍵を取り出して、門を開けた。
この蜜柑寮には、寮の管理人はいないらしい。
秋菜が、「いないほうが自由でいいと思って。」と言っていた。
「…おじゃましまーす…。」
誰もいないと思うが、柚実は小声でそういいながら寮に入っ行った。