蜜柑寮より愛を込めて
一章

春のはじまり


桜の花びらがひらひらと舞う桜並木。

大きな荷物を持った女が歩いていた。

セミロングの茶色のサラサラの髪が風に揺れている。

「…この辺のはずなんだけど。」

女は、手に持っている住所と地図の書かれている紙に目をやる。


この女の名前は、中野柚実(ナカノ ユミ)。

今年、専門学校を卒業したばかりだ。

就職活動がうまくいかず、いくつも面接に落ちた。

そんな柚実にも、やっと就職先が決まり、これから、そこへ向かうところだ。


(あれー??あたし間違ったかなぁ??)

思った以上に目的地を発見できず、柚実は焦っていた。

キョロキョロと当たりを見渡しながら、道を歩く。

…本当に迷った!?

柚実の脳裏にそんな考えが浮かんだ。

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