君が必要とする限り
理由はわからないけれど、
胸が騒ついた。
動悸がして、若干の目の霞みがある。
「…寝不足のせいかな…」
病院にいるときはかけるようにしている黒縁メガネを外し、
診断書の横に置いた。
そして目頭を挟むようにして指を添える。
目を閉じた途端、ずしりと目の奥から重みを感じた。
―今日は、帰ろう。
笹木さんに言われた通り、
今日はなるべく早めに寝よう。
荷物を纏めて、上着に腕を通す。
そして…
最後に、大野亜矢子の診断書を鞄に入れた。
この時はまだ、この先起こる事態がどんなものか、
俺は知る由もなかった。