君が必要とする限り

「ね、先生。キャッチボール、いつ一緒に出来る?」


「そうだなぁ…明日なら、大丈夫かな?」


「ほんと?!そうしたら、明日キャッチボールしよう!約束だよ?」


「うん。約束、ね。」


小さな指をすっと出し、
俺の小指に絡めた。


『ゆびきりげんま〜ん』


達也くんは可愛い声で、
そう唄った。



「川崎先生。」


そんな時だった。


「はい。」


「院長が、お呼びです。」


…親父が?


「わかりました。すぐ行きます。」


達也くんを看護師に任せて、
俺は院長室へ向かった。









「失礼します。」



扉を開けると、
いつもより険しい顔をした
“院長”が、そこにいた。



「突然、すまないね。」



椅子からゆっくりと腰を上げて、ソファーへと歩きだした。



「いえ、大丈夫です。どうか…なさいましたか?」



俺もソファーへと足を向ける。
親父が腰掛け、俺も同じように座ろうとした、その時、


「…大野亜矢子…」


そう親父が呟いた。


「…大野亜矢子さんは…最近、どうだ?」


「どうって…?」


「彼女は、何かお前に話したか?」


「話したって……カウンセリング程度の会話しか、まだ…」



彼女が涙を流し、抱き締めたという事実は飲み込んだ。



「そう…か…」


親父は俺を全く見ず、
ぼーっと机を眺めていた。




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