君が必要とする限り
Ⅴ
行き慣れたバー。
騒つく店内には、何人もの酔っ払いが渦巻く。
今日会ったばかりなのに、
唇を押し付けたり、体を寄せあったり。
もうここにいることに、
常識なんて無い。
私も、ここにいれば無心になれる。
ため息を1つ、
私はカクテルを口に含んだ。
喉を通り、頭にクラッと軽い目眩がする。
そういえば最近、寝不足だ。
正確に言うと、眠れない。
“実行する日”が、近づいてるからかもしれない。
「亜矢子、あんま飲んでないね。」
知らないうちに近づいてきた足音は止まり、
後ろから囁かれた。
「そんなことないよ?」
腰に回された腕に、
空いた右腕を重ねた。
「ねぇ、抜け出さない?」
耳に入る、低い声。
この声は……
「いいよ。アキラ。」
そう。
彼は、アキラだ。