たとえばあなたが



――『事件』が起こったのは1989年。

その少し前、近い時期に、ある会社で横領事件が発生していた。

横領に伴い解雇された社員は6人。

『事件』の被害者が、横領事件の会社の上役だったことから、『事件』にはこの中の誰かが関わっていると警察はにらんでいた。



ところが結局、有力な情報を得られないまま、『事件』は時効を迎えた。



崇文は当時の新聞記事のコピーを眺めた。

そこには『6人』という記述しかなく、名前の記載はない。



「刑事さんは、6人すべての事情聴取に立ち会っていたと聞きました」

「その頃は俺もまだ若かったから、勉強のためって感じでね」

「そのときに、コイツだっていう人はいませんでしたか」

「いたらとっくに逮捕してるよ」



刑事は吐き捨てるように言うと、

「もういいだろ?」

とタバコを灰皿に押し付けた。

「そんな用件なら、俺が役に立てることはないよ」




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