たとえばあなたが
(なんなのっ!)
萌が目を丸くしていると、千晶は、
「今から私の代わりに取引先に行ってほしいの」
と言った。
「今から?!」
普段なら、デスクワークから逃げる口実になると喜んで引き受けるところだけれど、今日に限ってはそうはいかない。
「う~、行ってあげたいけど…これやらないと…」
チラリと机上の契約書に目をやると、千晶はまた、うんうんと頷いた。
「無理を承知で、お願いします!」
「…え~…ていうか、何があったの?電話、誰だったの?」
萌の質問に、千晶は眉間に皺を寄せた。
「あとで話す…。今はとにかく急いでるの。お願い!」
「…え~…」
なおも萌が渋っていると、千晶は萌に近づいて、こう耳打ちした。
「その取引先に小山さんを紹介するって言ってあるの。だからふたりで行って来てくれないかなぁ」
「…ふたりで…」
「そう、ふたりで」
萌の目の色が変わった。