たとえばあなたが



その後、萌は小山と趣味の話や好きなテレビの話をして過ごした。

当たり障りのない会話だったけれど、萌にはそれでじゅうぶんだった。



「本当にご馳走になっちゃって、いいんですか」

「もちろん。あ、佐山さんも買いますか?」

「買うって、何をですか?」

カフェの会計を済ませた小山を後ろから覗き込むと、トレイにベーグルが乗っていた。

いつの間に取ったのか、買って持ち帰るつもりらしい。



「おやつですか?」

萌が聞くと、小山はにっこり笑って、

「木村さんに」

と短く答えた。



「千晶に?」

「会社に戻ったら、話を聞きながら一緒に食べようと思ってね」

(…ふぅん…)



こんなにもふたりで話していたというのに、その間にも小山は千晶の心配をしていたようだ。

萌は、おもしろくない気持ちで車に乗り込み、車窓から見える初冬の景色を眺め続けた。








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