たとえばあなたが



今日ほど萌の存在がありがたいと思ったことはない。

人付き合いを得意としない千晶にとって、無理な頼みごとができる相手は彼女だけと言っても過言ではなかった。



「今日は本当に萌ちゃ…佐山さんが外出日じゃなくて助かりました」

「いいですよ、『萌ちゃん』で」

「あはは。すいません、ついクセで」



紅茶を注いだカップから、温かい湯気といい香りが立ち昇った。



「いい香りですね、何のフレーバー?」

すかさず小山が反応する。

萌の報告どおり、甘い香りが好きなようだ。



「ストロベリー&ハニーって書いてありました」



フワリと広がる、甘い香り。

それだけでも癒されるというのに、さらに小山のやさしい笑顔に接した千晶の目に、ふいに涙が浮かんだ。



(うわっ、やだ)

気を緩めすぎたようだ。




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