たとえばあなたが



「大丈夫?」

とっさに小山がハンカチを差し出してくれた。

「…すいません」

千晶はきちんとアイロンをかけられたハンカチを目頭に当てた。

それでも涙は、千晶の意思とは関係なく溢れ出る。



「すいません、ほんと…どうしちゃったんだろ…」

「疲れたんでしょう。大変でしたね、今日は」



そう、疲れているだけだ。

くだらないことに労力を使ってしまったせいで。



(…あの化粧オバケ…)

礼子の顔が頭に浮かぶと、あの香水のニオイまでよみがえってきた。



千晶は慌てて、紅茶のカップを口に運んだ。



「っ…熱っ」



紅茶はまだ、舌をやけどするほどに熱い。

その刺激のおかげか、それとも礼子の顔を思い出した怒りがそうさせたのか、ようやく涙が止まった。




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