たとえばあなたが



はぁーっ、とため息をひとつもらして、

「…ほんと、すいません」

と、膝の上で握り締めたハンカチに視線を落とす。



「さっきから『すいません』ばかりですよ」

小山が苦笑いをした。

「もういいから、食べましょう。どうぞ」



手渡されたベーグルにはブルーベリーが入っていて、とてもおいしそうだった。

「ありがとうございます。ブルーベリー、大好きなんです」

「それは良かった」



小山は再び紙袋に手を入れ、オレンジピールが入ったベーグルを取り出した。

小山がそれをかじると、シナモンの香りがほのかに千晶の鼻に届いた。

(あっちを渡されなくて良かった)

千晶は、シナモンが苦手だった。



やがて感情が落ち着くと、千晶は今朝の話を持ち出した。



「今日は出先に一緒に行けなくてごめんなさい。どうでしたか?」

「佐山さんのリードのおかげで、滞りなく済みましたよ」



小山の2週間の研修はあと数日で終わり、そうなれば千晶と共に行動することもなくなる。

一緒に営業に出る機会は、もうないだろう。



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