たとえばあなたが



蛍光灯がチカチカと点滅した。

どうも最近、振動に反応するようになったようだ。

千晶が灯りを見上げたとき、足音が近づいてきて扉が開いた。



「連れてきたよ」



いつもと変わらない様子で淡々と、崇文が入って来る。

その後ろには、見知らぬ少年が立っていた。



「早く入れ」

と崇文に言われて、少年はおずおずとバーの地下室に足を踏み入れた。



「…省吾です」



今にも消え入りそうなほど小さな声で、少年は言った。

それはまるで、突然闘牛場の中央に投げ出された兎のようだった。



怯える省吾に、千晶は、

「よろしくね」

と抑揚のない声で言って右手を差し出した。




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