たとえばあなたが



『あ、崇文くん?萌です』

ちょっと鼻にかかった、かわいい声が聞こえる。

「うん」

『突然ごめんね、仕事中だった?』

「ちょうど休憩中だったから平気だよ。どうした?」



誰も自分のことなど気にしていないとわかっていながらも、周囲が気になって、崇文は食堂の廊下に出た。



『あのね、もしよかったら、今夜お食事でもどうかなぁって思って』

(なんだ、いつもの食事会か)

萌が連絡をよこすのは、大抵千晶絡みと決まっている。

今回はどうやら、忘年会のお誘いのようだった。

「いいよ。あ、じゃあ千晶にさ、この間言ってたCD買って来て俺に貸せって伝えてくれる?」

崇文がそう言うと、

『あ……あのね…』

と、萌が、少し言いにくそうに声を小さくした。

『…違うの…えっと…崇文くんと、ふたりで行きたいなって思って…』



「えっ、ふ、ふたりで?!」



当たり前のようにくっついていた千晶がいない…―



『うん、ダメかなぁ』



「いやいやいやいやいや、もちろん行くよ!」



そこに断る理由など、何もなかった。




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