たとえばあなたが
崇文は、ロッカールームでコートと鞄を取って、出入り口にある全身鏡を見た。
映っているのは、心なしかいつもより肌にハリがある自分。
スーツもくたびれていないし、まあ、こんなものだろう。
唯一、いかにもサラリーマンといったコートだけが悔やまれた。
(でも、さすがにコートまで買う余裕ないし…)
せめて昨日わかっていたら、今年買ったばかりのトレンチコートにしたのに…―
この唐突な誘いには、何か意味があるのだろうか。
(…何か言いたげだったような気がするけど)
こういう場合、あまり期待しすぎないほうがいい。
焦りは禁物、早とちりも禁物。
(まずは向こうの様子を見て、こちらの出方を考えよう)
自分を抑える気持ちと、ほんの少しの期待を胸に、崇文は従業員通用口を出た。