たとえばあなたが



「お前はずいぶんご機嫌ななめだな」

崇文がタバコを灰皿に押し付けた。

「…言ったでしょ。この部屋では、余計な話はしたくないの」



この部屋は、非日常と決めている。

崇文の浮かれ話を聞く余裕などない。



―…近づいてきた影。

うまく行けば、もっと近づける。



ここまで辿り着くのに、5年かかっている。

その間にも相手はのうのうと幸せな生活を送っているかもしれないと思うと、千晶は身震いするほどの怒りを感じた。

(警察が、時効なんて作るから…)

最近では、時効の撤廃運動も盛んになっている。

早く実現して欲しい。

そして、自分と同じ思いを味わう人間がひとりでも減ってくれればいい。



(私はもう、そこには戻れないのだから…)



今、気を抜いたら、何もかもが無駄になってしまう。

緊張感を保つことが、今は何よりも大事なのだ。



「…わかってるよ…」

崇文もまた、同じ思いだった。




< 219 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop