たとえばあなたが
桜木和子殺害のニュースは、日本全国を駆け巡った。
地元で愛される小料理屋の女主人の、突然の死。
これまでの彼女の身辺には不審な点などなく、その死は彼女を知る者たちにとって計り知れない衝撃を与えた。
事件が起こったのは、1月7日、木曜日。
和子は、『秋桜』のカウンターで腹部を刺された状態で見つかった。
第一発見者は、野菜の契約農家の配達人。
朝、決まった宅配時間に応答がないのを不審に思い扉を押してみたところ、鍵がかかっていなかったため中に入り、遺体を発見した。
すでに和子の体は冷たくなっていたという。
千晶は、崇文からの連絡を受けて、すぐに駆けつけた。
現場には警察官が大勢いて、店の中には入れなかった。
その光景は、千晶に幼い記憶を思い起こさせた。
あのときと同じ空気が、怖くてたまらない。
千晶は震える手で崇文の洋服の袖を握り締め、現場での簡単な聴取に応じた。
聴取ののち、ふたりは和子の遺体が運ばれた病院へ向かった。