たとえばあなたが
時刻が昼休みになった頃、千晶の携帯が着信を知らせた。
誰とも話す気分になれなかったが、着信が萌からだとわかると、千晶は通話ボタンを押した。
『千晶、大丈夫?』
「…萌ちゃん、ちゃんと出勤したんだ。エライね」
『私は年に数回しかおばさんに会ってなかったし…。でも千晶の気持ちを思うと…』
萌は、涙声だった。
『私、千晶の分まで仕事がんばるから、千晶、ゆっくり休んで』
「…ありがと…」
おさまりかけていた涙が、萌の声につられて、また溢れてきた。
やさしい萌。
ああ、自分にもこんなにやさしい心があれば…―
和子を失った【哀しさ】で、この胸を満たすことができるのに。
憎い。
犯人が、憎い…―
今、千晶の心にある感情は、ただそれだけだった。