たとえばあなたが
「はい?」
迫る香水に、崇文は身をのけぞらせた。
礼子はさらに続ける。
「だからぁ、照れなくてもいいんですよぉ」
(…まずいっ!)
行きたくない、いや、行ってはいけない方向に行こうとしている。
「いや、違うんですよ。中西さん…」
「わかってますってばぁ!」
礼子の暴走は止まる気配を見せない。
近くの席の客が全員、こちらを見ている。
あの奇妙なふたり連れはどういう関係なのだろうと、誰もが気にしているのだろう。
崇文は顔から火が出る思いで、慌てて礼子を制止しようとした。
「ちょっ、静かに…」
「でもね、石田さん」
(…俺の話も聞けやっ!)
崇文に一切口を挟ませない礼子に、崇文はなす術がなかった。